この記事のポイント
AIが自律的に生成した発明は特許を取得できるのか。DABUS判決を中心に各国の最新判例と企業の実務対応をPatentMatch.jpがお届けします。
AIの能力が向上するにつれ、AIが自律的に新たな技術的解決策を「発明」するケースが現実のものとなっています。しかし、AIが生み出した発明は特許を取得できるのでしょうか。
DABUS判決の衝撃
DABUSとは
DABUS(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)は、Stephen Thaler博士が開発したAIシステムです。DABUSは人間の介入なしに2つの発明を生成しました。
- フラクタル構造の食品容器:掴みやすく断熱性に優れた容器
- フラッシングライト:注意を引きやすい光の点滅パターン
Thaler博士はDABUSを「発明者」として世界各国に特許出願しました。
各国の判断
| 国 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 米国 | 不可 | 発明者は自然人に限定(Thaler v. Vidal, CAFC 2022) |
| 英国 | 不可 | 最高裁:発明者は自然人のみ(2023年) |
| 欧州(EPO) | 不可 | 拡大審判部:発明者は自然人に限定 |
| 日本 | 不可(解釈) | 特許法上、発明者は自然人と解される |
| オーストラリア | 一時的に可→覆る | 連邦裁判所で認めるも、控訴裁判所で否定 |
| 南アフリカ | 可 | 方式審査のみで登録(実体的判断なし) |
「AI発明者」問題の本質
なぜ重要なのか
AIの発明能力が向上すると、以下の問題が深刻化します。
- 発明者不在問題:AIが単独で発明した場合、誰を発明者とするのか
- 権利帰属問題:特許権は誰に帰属するのか(AIの所有者?使用者?)
- 進歩性判断への影響:AIが容易に到達できる発明は「進歩性なし」とされるのか
- 発明のインセンティブ:AIによる発明を保護しなければ、AI開発への投資が減少しないか
人間の関与の程度
実務上は、AIの使い方によって以下のように分類できます。
レベル1:AIは単なるツール → 人間が発明者(問題なし)
レベル2:AIが候補を提案、人間が選択 → 人間が発明者(グレーゾーン)
レベル3:AIが発明、人間は指示のみ → 発明者なし?(問題)
レベル4:AIが完全自律で発明 → 発明者なし(現行法では特許取得不可)
企業の実務対応
発明記録の整備
AIを使った研究開発プロセスでは、人間の関与を明確に記録することが不可欠です。
- 着想の記録:どのような課題を設定し、なぜそのアプローチを選んだか
- AIへの指示内容:プロンプト、パラメータ設定、学習データの選択
- 選択・判断の記録:AIの出力から何をどのような基準で選んだか
- 検証・改良の記録:人間がどのように結果を検証し、改良したか
クレーム設計の工夫
AIの寄与度が高い発明でも、人間の技術的貢献が明確な部分に焦点を当てたクレーム設計が有効です。
営業秘密との併用
特許が取得できないAI発明は、営業秘密(トレードシークレット)として保護する選択肢もあります。
今後の法制度の動向
議論の方向性
各国で以下のような法改正の議論が進んでいます。
- AI発明者の容認:AIを発明者として認める法改正
- AI支援発明の特別規定:人間の関与の最低基準を明確化
- 新たな権利制度:特許とは別の「AI発明権」の創設
日本の動き
日本では特許庁の研究会でAI発明の取り扱いについて議論が続いています。2026年時点では法改正には至っていませんが、ガイドラインの策定が進む見込みです。
PatentMatch.jpでは、AI関連発明の出願戦略コンサルティングを提供しています。