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ブラジル産業財産庁(INPI)への特許出願手続き、費用、審査の特徴を解説。南米最大市場での知財戦略をPatentMatch.jpがお届けします。
ブラジルは南米最大の経済大国であり、人口2億1,000万人を超える巨大消費市場です。自動車、農業機械、石油化学、医薬品など幅広い産業分野で日本企業が進出しており、ブラジルでの特許取得は中南米市場攻略の第一歩となります。
本ガイドでは、ブラジル産業財産庁(INPI: Instituto Nacional da Propriedade Industrial)への出願手続き、審査の現状、費用について解説します。
ブラジル特許制度の概要
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 管轄機関 | INPI(ブラジル産業財産庁) |
| 特許存続期間 | 出願日から20年 |
| 審査方式 | 審査請求制(出願日から36ヶ月以内) |
| 加盟条約 | PCT、パリ条約、TRIPS協定 |
| 公開 | 出願日から18ヶ月後 |
| 言語 | ポルトガル語 |
特許の種類
| 種類 | 保護期間 | 概要 |
|---|---|---|
| 発明特許(Patente de Invenção) | 出願日から20年 | 技術的発明 |
| 実用新案(Modelo de Utilidade) | 出願日から15年 | 物品の実用的改良 |
出願ルートと手続き
出願ルート
- 直接出願 — INPIにポルトガル語で出願
- パリ条約ルート — 優先権主張(12ヶ月以内)
- PCTルート — 国内移行期限は優先日から30ヶ月
必要書類
| 書類 | 備考 |
|---|---|
| 願書 | ポルトガル語 |
| 明細書・請求の範囲 | ポルトガル語への翻訳が必要 |
| 要約書 | ポルトガル語 |
| 図面 | 必要に応じて |
| 優先権証明書 | パリ条約ルートの場合 |
| 委任状 | 公証不要(一般委任状でOK) |
| 譲渡証 | 出願人と発明者が異なる場合 |
審査の特徴と課題
審査のバックログ問題
ブラジルのINPIは長年にわたり深刻な審査バックログを抱えていました。かつては最初の審査通知まで8〜10年かかることも珍しくありませんでした。しかし、近年の改革により審査期間は大幅に改善されています。
審査期間の改善状況
| 時期 | 平均審査期間 |
|---|---|
| 2015年以前 | 8〜10年以上 |
| 2020年頃 | 5〜7年 |
| 2025年以降 | 2〜4年(目標) |
INPIは審査官の増員やIT化により、バックログ解消を進めています。
優先審査制度
以下の場合、優先審査(Exame Prioritário)を申請できます。
- 出願人が65歳以上、または重大な疾病を持つ個人
- グリーンテクノロジーに関する発明
- 技術移転に関連する出願
- PPH(特許審査ハイウェイ)の利用
PPH(日伯PPH)の活用
日本とブラジルの間にはPPHが運用されています。日本で特許査定を受けた出願に基づき、INPIで優先的に審査を受けることが可能です。バックログが残るブラジルでは、PPHの活用が特に重要です。
費用の目安
| 項目 | 費用(BRL) | 日本円概算 |
|---|---|---|
| 出願料 | 175 | 約5,300円 |
| 審査請求料 | 590 | 約17,700円 |
| 登録料 | 340 | 約10,200円 |
| 年金(初期) | 295〜 | 約8,900円〜/年 |
※BRL 1 ≒ 約30円(2026年3月時点の概算)。中小企業・個人発明家は料金が大幅に減額(最大60%割引)。
ブラジル特有の注意点
ANVISA(国家衛生監督庁)による医薬品特許の事前承認
ブラジルでは、医薬品に関する特許出願について、INPIの審査に加えてANVISA(Agência Nacional de Vigilância Sanitária)の同意が必要とされていた時期がありました。2021年の法改正により、ANVISAの関与は「公衆衛生上の懸念がある場合」に限定されましたが、依然として医薬品特許には追加的な検討が必要です。
実施義務
ブラジル特許法は、特許権者に対してブラジル国内での実施義務を課しています。登録から3年以内に実施されない場合、第三者が強制実施権(Compulsory License)を請求できます。ライセンス供与やブラジル国内での製造計画を事前に検討しておく必要があります。
ポルトガル語翻訳
ブラジルの公用語はポルトガル語であり、出願書類はすべてポルトガル語で提出する必要があります。技術用語を含む正確な翻訳は、権利範囲の適切な確保に不可欠です。
まとめ
ブラジルは審査のバックログという課題を抱えつつも、南米最大市場として知財保護の重要性は極めて高い国です。PPHの活用、実施義務への対応、翻訳品質の確保が成功の鍵となります。PatentMatch.jpでは、中南米の知財動向を含めた海外特許情報を引き続きお届けします。