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ドイツが欧州最強の知財訴訟管轄と言われる理由を解説。自動差止、二分制度、訴訟戦略のポイントをPatentMatch.jpがお届けします。
欧州で特許侵害訴訟を起こすなら、多くの権利者がドイツを選びます。迅速な審理、「自動差止」の原則、専門性の高い裁判官——ドイツが「欧州の特許訴訟のメッカ」と呼ばれる理由を解説します。
ドイツ特許訴訟の特徴
二分制度(Bifurcation)
ドイツ特許訴訟の最大の特徴は、侵害訴訟と無効訴訟が別々の裁判所で審理される「二分制度」です。
- 侵害訴訟:地方裁判所(デュッセルドルフ、マンハイム、ミュンヘン等)
- 無効訴訟:連邦特許裁判所(ミュンヘン)
この分離により、侵害訴訟は無効主張に妨げられることなく迅速に進行します。侵害訴訟は通常12~18ヶ月で判決に至りますが、無効訴訟は18~24ヶ月かかるため、「侵害認定→差止命令」が先に出るケースが多いのです。
自動差止の原則
ドイツでは、特許侵害が認定されると原則として差止命令が下されます。米国のeBay判決以降、差止命令の発行が制限的になった米国とは対照的です。
ただし、2021年の法改正で「比例原則」が導入され、差止が過度に不均衡な場合は制限される可能性が出てきました。それでも、差止命令が得やすい管轄であることに変わりはありません。
迅速な審理
| 管轄 | 平均審理期間 |
|---|---|
| デュッセルドルフ地裁 | 12~14ヶ月 |
| マンハイム地裁 | 10~12ヶ月 |
| ミュンヘン地裁 | 14~16ヶ月 |
| UPC中央部ミュンヘン | 12ヶ月目標 |
主要な裁判所
デュッセルドルフ地方裁判所
ドイツで最も多くの特許侵害訴訟を扱う裁判所です。通信、電子機器、機械分野の訴訟が多く、経験豊富な裁判官が在籍しています。
マンハイム地方裁判所
最も迅速な審理で知られ、特許権者にとって有利な管轄とされています。標準必須特許(SEP)訴訟の実績も豊富です。
ミュンヘン地方裁判所
連邦特許裁判所が所在するミュンヘンは、無効訴訟との連携がしやすい管轄です。化学・医薬分野の訴訟が比較的多い特徴があります。
UPCとドイツ裁判所の競合
2023年のUPC開設以降、ドイツの裁判所とUPCの管轄が競合するケースが生じています。
ドイツ裁判所を選ぶメリット
- 判例の蓄積が豊富で予測可能性が高い
- 「トーピード」戦略(先制的に確認訴訟を提起)が使いやすい
- オプトアウトした欧州特許はUPCの管轄外
UPCを選ぶメリット
- 一つの判決でEU全域に効力
- 統一特許はUPCの専属管轄
- ドイツ裁判所に比べ損害賠償額が高くなる可能性
日本企業の訴訟戦略
被告になった場合
- 無効訴訟の提起を即座に検討
- ドイツ現地の特許訴訟専門弁護士(Patentanwalt)と連携
- 二分制度のタイムラグを理解し、戦略を立てる
- 差止命令の仮執行停止の申立てを検討
原告として活用する場合
- ドイツ市場での競合の侵害行為を調査
- 差止命令を武器にライセンス交渉に持ち込む
- デュッセルドルフかマンハイムか、管轄を戦略的に選択
PatentMatch.jpでは、欧州知財訴訟のリスク分析を提供しています。