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日本とアメリカの特許制度の違い — 7つの重要な相違点

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この記事のポイント

日本とアメリカの特許制度の7つの重要な違いを解説。先願主義vs先発明主義の歴史、情報開示義務、継続出願など実務に直結する相違点。

日本企業が米国で特許を取得する際、日本の制度と同じ感覚で手続を進めると思わぬ落とし穴に陥ることがあります。両国の制度は基本的な枠組みは似ていますが、実務上重要な違いが多数存在します。本記事では、日米特許制度の7つの重要な相違点を実務的な観点から解説します。


相違点1: 出願制度の基本原則

先願主義(日本)vs 先発明者先願主義(米国)

項目日本米国
基本原則先願主義先発明者先願主義(AIA以降)
判断基準先に出願した者に権利を付与先に発明した出願人に権利を付与
施行時期従来から2013年3月16日以降(AIA)

米国は2013年のAIA(America Invents Act)施行により「先発明主義」から「先発明者先願主義(first inventor to file)」に移行しました。ただし、日本の純粋な先願主義とは異なり、「先に発明した者」という要素が残っている点に注意が必要です。


相違点2: 情報開示義務(IDS)

日米の情報開示義務の違い

項目日本米国
義務の有無先行技術文献の記載義務(努力義務)IDS提出義務(法的義務)
違反の効果特に罰則なし特許の権利行使不能(不公正行為)
提出対象出願人が知る先行技術特許性に重要なすべての情報
継続的義務なし特許発行まで継続

米国のIDS(Information Disclosure Statement)は非常に重要です。関連する先行技術を意図的に隠した場合、「不公正行為(inequitable conduct)」として特許全体が権利行使不能になるリスクがあります。

IDS提出の実務ポイント

  1. 日本出願で引用された文献はすべてIDSに含める
  2. 他国の審査で引用された文献も提出する
  3. 発明者が知っている関連技術文献を網羅的にリストアップ
  4. 「提出しすぎ」はリスクにならないが「提出漏れ」は致命的

相違点3: グレースピリオド(新規性喪失の例外)

新規性喪失の例外規定の比較

項目日本米国
猶予期間公知日から1年以内公知日から1年以内
適用範囲発明者の行為に限定発明者またはその共同発明者の行為
手続要件出願時に書面提出+30日以内に証明書特別な手続不要
第三者による公知原則として適用なし発明者の公表後の第三者公知にも適用

米国では手続的な要件が少なく、日本よりも柔軟なグレースピリオド制度となっています。ただし、米国でグレースピリオドに頼ることは、他国での権利取得に影響するため推奨されません。


相違点4: 特許出願の種類

出願の種類の比較

出願の種類日本米国
通常出願○(Non-provisional)
仮出願×○(Provisional)
分割出願○(Divisional)
継続出願×○(Continuation)
一部継続出願×○(CIP: Continuation-in-Part)
国内優先権出願

米国特有の出願制度

仮出願(Provisional Application)

項目内容
目的早期に出願日を確保するための簡易出願
要件明細書のみ(クレーム不要)
効果12か月以内に本出願への移行が必要
費用約2万円(小規模事業体の場合)
メリット「Patent Pending」を表示可能、出願日を早期確保

継続出願(Continuation)

項目内容
目的同一明細書から新たなクレームで出願
要件親出願と同一の明細書を使用
効果親出願の出願日の利益を享受
制限新規事項の追加は不可
実務上の意義クレーム範囲を変えて複数の特許を取得

一部継続出願(CIP)

項目内容
目的親出願に新たな実施形態を追加して出願
要件親出願の内容+新規追加内容
効果新規追加部分はCIP出願日が基準、元の部分は親出願日が基準

相違点5: 審査制度

審査手続の比較

項目日本米国
審査請求出願から3年以内に別途請求出願と同時に自動的に審査開始
審査請求料約18万円なし(出願料に含まれる)
平均審査期間約10か月(一次審査まで)約16か月(一次審査まで)
拒絶理由対応期限60日(延長可能)3か月(最大6か月まで延長可能、追加料金)
最終拒絶後の対応拒絶査定不服審判RCE(継続審査請求)またはアピール
面接審査可能可能(比較的活用される)

RCE(Request for Continued Examination)

米国独自の制度であるRCEは、最終拒絶(Final Rejection)後に審査を再開するための手続です。

項目内容
費用約16万円(小規模事業体は約8万円)
回数制限法的な回数制限なし
メリット審判に進まずに審査官と再度交渉可能
デメリット審査期間が長期化、費用が積み上がる

相違点6: 特許の有効期間と延長

存続期間の比較

項目日本米国
基本期間出願日から20年出願日から20年
延長制度医薬品等に限定(最大5年)PTA/PTEにより調整
年金制度あり(年次で増額)3回(3.5年、7.5年、11.5年)

米国特有のPTA(Patent Term Adjustment)

USPTOの審査遅延が原因で権利化が遅れた場合、その遅延分だけ特許期間が延長されます。

PTAの原因期間延長
14か月以内に一次審査結果を出さなかった場合超過日数分延長
4か月以内に応答しなかった場合超過日数分延長
出願から3年以内に特許を発行しなかった場合超過日数分延長

相違点7: 特許訴訟制度

訴訟制度の比較

項目日本米国
管轄裁判所東京地裁・大阪地裁(専属管轄)各連邦地方裁判所
陪審制なし(裁判官が判断)あり(陪審裁判を選択可能)
ディスカバリー限定的広範(膨大な文書開示義務)
訴訟費用数百万〜数千万円数千万〜数億円
懲罰的損害賠償なしあり(故意侵害で最大3倍)
IPR(当事者系レビュー)なしあり(PTAB)
訴訟期間1〜2年2〜4年

米国訴訟の注意点

  1. ディスカバリー費用 — 文書開示義務により膨大な費用が発生
  2. 懲罰的賠償 — 故意侵害の場合、損害額の3倍までの賠償
  3. 弁護士費用 — 原則として各自負担(日本のように敗訴者負担ではない)
  4. パテントトロール — 実施しない主体による訴訟リスク

日米出願の実務チェックリスト

米国出願時に確認すべき事項

  • IDS用の先行技術リストを準備
  • 仮出願の利用を検討
  • 継続出願・CIPの必要性を検討
  • クレームドラフトは米国実務に精通した弁護士に依頼
  • グレースピリオドに頼らず、公表前に出願
  • 米国の特許期間調整(PTA)を理解

まとめ

日米の特許制度は7つの重要な相違点があり、特にIDS、継続出願制度、訴訟制度の違いは実務に大きな影響を与えます。米国出願を検討する際は、日本の制度の延長ではなく、米国特有の制度を理解した上で戦略を立てることが重要です。

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