この記事のポイント
特許侵害に対する差止請求の戦略を解説。差止の要件、仮処分の活用、差止が認められるケースと認められないケース、交渉における差止の活用法を紹介します。
差止請求とは
差止請求は、特許権者が侵害者に対して侵害行為の停止を求める権利です。損害賠償とは異なり、侵害品の製造・販売の停止という直接的な効果があるため、競合他社への最も強力な対抗手段となります。
日本の差止請求
法的根拠
日本の特許法100条に基づき、特許権者は侵害者に対して差止請求権を有します。
- 侵害の停止:現に行われている侵害行為の停止
- 侵害の予防:侵害のおそれがある行為の予防
- 廃棄請求:侵害品や侵害に用いた設備の廃棄
仮処分の活用
訴訟の本案判決を待つ間の暫定的な措置として、仮処分(差止仮処分)を申し立てることができます。
仮処分のメリット:
- 本案訴訟よりも迅速に結果が得られる
- 侵害行為を早期に停止させることで損害の拡大を防止
- 和解交渉において強力な交渉材料となる
仮処分の要件:
- 被保全権利(特許権)の存在の疎明
- 保全の必要性(緊急性)の疎明
- 担保金の供託
差止が認められにくいケース
権利濫用の抗弁
差止請求が権利の濫用と判断される場合があります。
- 特許権者が長期間侵害を放置していた場合
- 差止により公共の利益に重大な影響がある場合
- NPEによる差止請求で、ライセンス収入のみが目的の場合
標準必須特許(SEP)
FRAND条件でのライセンスを約束したSEPについては、差止請求が制限される場合があります。ライセンス交渉を誠実に行わないままの差止請求は、独占禁止法上の問題を生じる可能性があります。
差止の戦略的活用
交渉のレバレッジ
差止の可能性を示唆することで、ライセンス交渉における交渉力を高めることができます。特に、侵害者の主力製品に対する差止の可能性は強力な交渉材料です。
市場からの排除
競合他社の侵害品を市場から排除し、自社のマーケットシェアを回復するために差止を活用します。
段階的な権利行使
まず警告状を送付し、交渉を試み、それでも解決しない場合に仮処分や本案訴訟に進むという段階的なアプローチが一般的です。
差止を受けた場合の対応
- デザインアラウンド(回避設計)の実施
- ライセンス交渉の開始
- 特許の無効化(無効審判の請求)
- 控訴・上告による不服申立
まとめ
差止請求は特許権行使の最も強力な手段です。仮処分の活用やタイミングの選択により、その効果を最大化できます。ただし、権利濫用やSEPの制約にも注意し、状況に応じた戦略的な活用を心がけましょう。