この記事のポイント
特許調査の基本的なやり方をJ-PlatPatの画面操作に沿って初心者向けに解説。先行技術調査の手順、検索式の作り方、検索結果の読み方、調査報告書の書き方まで完全ガイド。
特許出願の前に必ず行うべき「先行技術調査」。しかし特許調査のやり方を学校で教わることはなく、初めて取り組む人にとっては何から手をつければよいか分からないのが実情です。
本記事では、特許庁が無料で提供している検索ツール J-PlatPat を使った特許調査のやり方を、初心者にも分かるよう一つひとつのステップに分解して解説します。検索式の作り方から検索結果の読み方まで、これを読めばすぐに調査を始められます。
そもそも特許調査とは何か
特許調査の種類
特許調査には目的に応じて複数の種類があります。
| 調査の種類 | 目的 | 実施タイミング |
|---|---|---|
| 先行技術調査(出願前調査) | 自社発明が特許取得可能か確認 | 出願前 |
| 侵害調査(FTO調査) | 自社製品が他者の特許を侵害していないか確認 | 製品開発中〜発売前 |
| 無効資料調査 | 他者の特許を無効化できる先行技術を探す | 侵害警告を受けた時 |
| 技術動向調査 | 特定技術分野のトレンドを把握 | 研究開発の企画段階 |
| 競合調査 | 競合他社の特許ポートフォリオを分析 | 事業戦略の策定時 |
本記事では、最も基本的かつ重要な先行技術調査のやり方を中心に解説します。
なぜ先行技術調査が必要なのか
先行技術調査を怠ると、以下のリスクが生じます。
- 無駄な出願費用: 先行技術が存在する場合、出願しても拒絶される
- 審査請求料の損失: 審査請求後に拒絶されると、約15〜20万円が無駄になる
- 弁理士費用の損失: 明細書作成に30〜70万円をかけた後に特許性なしと判明
- 権利侵害のリスク: 他者の特許を侵害している可能性に気づかない
逆に、しっかり調査を行えば以下のメリットがあります。
- 出願の是非を合理的に判断できる
- 先行技術との差別化ポイントを明確にできる
- 明細書の記載を充実させ、審査通過率を高められる
- 特許のポートフォリオ戦略に活かせる
J-PlatPatの基本操作
J-PlatPatとは
J-PlatPat(Japan Platform for Patent Information)は、INPIT(工業所有権情報・研修館)が運営する無料の特許情報検索サービスです。日本の特許・実用新案・意匠・商標に関するほぼすべての情報を検索できます。
- URL: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
- 利用料: 無料
- 対応データ: 日本の特許公報、公開公報、実用新案、意匠、商標
- 検索可能期間: 1971年以降の公報(一部はそれ以前も)
アクセスと画面構成
トップページ
J-PlatPatにアクセスすると、以下のメニューが表示されます。
| メニュー | 内容 |
|---|---|
| 特許・実用新案 | 特許と実用新案の検索 |
| 意匠 | デザイン登録の検索 |
| 商標 | 商標の検索 |
| 審判 | 審判の経過情報 |
| 経過情報 | 出願の審査経過 |
先行技術調査では「特許・実用新案」を選択します。
特許・実用新案検索の画面
「特許・実用新案検索」を開くと、以下の検索方法が利用できます。
- 簡易検索: キーワードを入力するだけの最もシンプルな検索
- 詳細検索(テキスト検索): 検索項目を指定してキーワード検索
- 分類検索: FI分類やFタームで検索
- 番号検索: 特許番号・公開番号で特定の公報を検索
先行技術調査の手順
ステップ1: 調査対象の発明を整理する
検索を始める前に、自社の発明の内容を整理します。以下のポイントを書き出してください。
- 発明の概要: 何をする技術か(1〜2文で)
- 技術的特徴: 従来技術との違い(新しいポイント)
- 構成要素: 発明を構成する主要な部品・工程・材料
- 用途・効果: どのような分野で使い、どのような効果があるか
例: 温度センサー付きIoTデバイスの場合
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 概要 | 低消費電力の温度センサーとBLE通信を組み合わせたIoTデバイス |
| 技術的特徴 | 電池交換不要のエナジーハーベスティング機能を搭載 |
| 構成要素 | 温度センサー、BLE通信モジュール、振動発電素子、マイコン |
| 用途 | 工場の設備監視、食品の温度管理 |
ステップ2: 検索キーワードを洗い出す
発明の内容を整理したら、検索に使うキーワードを網羅的に洗い出します。
重要: 特許文献では一般的な表現と異なる用語が使われることが多いため、同義語・類義語・上位概念・下位概念を幅広くリストアップします。
キーワード展開の例
| 概念 | キーワード候補 |
|---|---|
| 温度センサー | 温度センサ、温度検出器、温度計測装置、サーミスタ、熱電対 |
| IoT | IoT、モノのインターネット、遠隔監視、ネットワーク接続、無線通信 |
| BLE | BLE、Bluetooth Low Energy、ブルートゥース、近距離無線通信 |
| エナジーハーベスティング | エナジーハーベスティング、環境発電、振動発電、自己発電 |
| 低消費電力 | 低消費電力、省電力、低電力、電池レス |
ステップ3: キーワード検索を実行する
基本的なキーワード検索
- J-PlatPatの「特許・実用新案検索」を開く
- 検索項目として「要約+請求の範囲」を選択
- キーワードを入力
検索例:
(温度センサ OR 温度検出 OR サーミスタ)
AND(BLE OR Bluetooth OR 近距離無線通信)
AND(エナジーハーベスティング OR 環境発電 OR 振動発電)
論理演算子の使い方
| 演算子 | 意味 | 使用例 |
|---|---|---|
| AND | 両方を含む | 温度センサ AND IoT |
| OR | いずれかを含む | BLE OR Bluetooth |
| NOT | 除外する | IoT NOT スマートフォン |
| ( ) | グループ化 | (温度 OR 湿度) AND センサ |
検索式のコツ
- まずは広めに検索: 最初はAND条件を少なくして全体像を把握
- 段階的に絞り込み: 結果が多すぎたらAND条件を追加
- OR条件を充実させる: 同義語の漏れを防ぐ
- 検索項目を変える: 「発明の名称」→「要約」→「全文」の順に広げる
ステップ4: FI分類を使って絞り込む
キーワード検索だけでは限界があります。FI分類(ファイルインデックス)を使うと、技術分野を正確に特定できます。
FI分類の調べ方
- パテントマップガイダンス(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/pmgs)にアクセス
- キーワードを入力して関連するFIを検索
- 適切なFI分類をメモ
FI分類の構造
FI分類はIPC(国際特許分類)を日本独自に細分化したものです。
例: G01K 7/22
G — セクション(物理学)
G01 — サブセクション(計測)
G01K — クラス(温度の測定)
G01K 7/22 — サブクラス(サーミスタ使用の温度測定)
主要なFI分類の例
| FI分類 | 技術分野 |
|---|---|
| G06N 3/ | ニューラルネットワーク・機械学習 |
| H01M 10/ | 二次電池(リチウムイオン電池等) |
| A61K | 医薬品組成物 |
| B25J | ロボット・マニピュレータ |
| H04W | 無線通信ネットワーク |
| G01K | 温度の測定 |
キーワード+FI分類の組み合わせ検索
検索項目「要約+請求の範囲」: (エナジーハーベスティング OR 環境発電)
AND
FI分類: G01K
このように、キーワードで技術的特徴を指定し、FI分類で技術分野を限定すると、ノイズを大幅に減らせます。
ステップ5: Fターム検索で精度を上げる
Fターム(ファセットターム)は、FI分類をさらに技術的特徴で細分化した日本独自の分類体系です。
Ftermの調べ方
- J-PlatPatの「パテントマップガイダンス」でFIに対応するFタームを確認
- 「テーマコード」を取得
- テーマコード内のFタームリストから適切なものを選択
例: テーマコード 2F056(温度の測定)
Fターム: 2F056AA05(サーミスタ方式)
ステップ6: 検索結果を読む
検索結果一覧の見方
検索結果には以下の情報が表示されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公開番号 | 特開2025-XXXXXX形式の番号 |
| 発明の名称 | 特許の名前 |
| 出願人 | 出願した企業・個人 |
| 出願日 | 出願された日付 |
| 公開日 | 公報が公開された日付 |
| FI分類 | 技術分類 |
公報の詳細を読む
気になる特許をクリックすると、以下の情報を確認できます。
- 要約: 発明の概要(最初に読む)
- 請求の範囲: 権利範囲を定義する最も重要な部分
- 明細書: 発明の詳細な説明
- 図面: 構成図・フローチャート等
- 経過情報: 審査の状況(特許済み・審査中・拒絶等)
読むべきポイント
先行技術調査では、以下の観点で検索結果を確認します。
- 技術的な類似性: 自社の発明と同じ技術的特徴があるか
- 構成要素の一致: 発明を構成する要素が重なっているか
- 効果・目的の一致: 同じ課題を解決しようとしているか
- 請求項との対比: 自社の発明が他者の請求項に含まれるか
検索式の作り方(実践テンプレート)
テンプレート1: 新しいアイデアの特許性調査
目的: 自社のアイデアに新規性・進歩性があるか確認
範囲: 直近10年の日本特許
検索式:
(コアキーワードの同義語をOR接続)
AND (技術的特徴のキーワードをOR接続)
AND FI分類
出願日: 20160101〜
テンプレート2: 競合他社の特許動向調査
目的: 特定企業の特許出願傾向を把握
範囲: 全期間
検索式:
出願人: "企業名"
AND FI分類(対象技術分野)
集計: 出願年別の件数、FI分類別の内訳
テンプレート3: 製品発売前の侵害調査(簡易版)
目的: 自社製品が他者の有効な特許に抵触しないか確認
範囲: 有効な特許(権利存続中のもの)
検索式:
(製品の構成要素をAND接続)
経過情報: 特許権存続中
確認: 各特許の請求項と自社製品の構成を対比
J-PlatPat以外の検索ツール
J-PlatPatは日本特許の検索に最適ですが、用途に応じて他のツールも併用しましょう。
| ツール | 強み | URL |
|---|---|---|
| Google Patents | 世界中の特許を横断検索、AIによる類似推薦 | https://patents.google.com/ |
| Espacenet | 欧州特許庁が運営、全世界の特許を網羅 | https://worldwide.espacenet.com/ |
| USPTO Full-Text | 米国特許の全文検索 | https://patft.uspto.gov/ |
| WIPO PatentScope | PCT出願の検索 | https://patentscope.wipo.int/ |
| CiNii | 日本の学術論文(非特許文献の調査に) | https://ci.nii.ac.jp/ |
無料の特許データベースの比較も参考にしてください。
調査結果のまとめ方
調査報告書の基本構成
先行技術調査の結果は、以下の形式で整理しておくと、弁理士への依頼時や社内検討時に役立ちます。
1. 調査概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査目的 | 先行技術調査(出願前調査) |
| 調査日 | 20XX年XX月XX日 |
| 調査対象発明 | (概要を記載) |
| 使用データベース | J-PlatPat、Google Patents |
| 検索式 | (使用した検索式を記載) |
2. 関連性の高い先行技術文献
| No. | 文献番号 | 発明の名称 | 出願人 | 関連度 | コメント |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 特開20XX-XXXXXX | (名称) | (企業名) | 高/中/低 | (自社発明との類似点・相違点) |
| 2 | … | … | … | … | … |
3. 結論
- 特許性の評価(新規性あり/なし、進歩性あり/なし)
- 出願の推奨/非推奨
- 差別化のポイント(先行技術との相違点を明確にする請求項の方向性)
よくある失敗と対策
失敗1: キーワードの同義語が不足
問題: 「AI」で検索したが「人工知能」「機械学習」「深層学習」の特許が漏れた
対策: 検索前にキーワードの同義語・類義語を網羅的にリストアップする。シソーラス(類語辞典)やパテントマップガイダンスを活用する。
失敗2: 検索範囲が狭すぎる
問題: 「発明の名称」だけで検索し、要約や明細書に記載されている先行技術を見落とした
対策: 検索項目を段階的に広げる(名称→要約→請求の範囲→全文)。
失敗3: FI分類を使わない
問題: キーワードだけの検索では、同じ単語が別の技術分野で使われている場合にノイズが多い
対策: 必ずFI分類を併用して技術分野を限定する。パテントマップガイダンスで適切な分類を調べる。
失敗4: 最新の出願を見落とす
問題: 特許は出願から公開まで18ヶ月のタイムラグがあるため、最新の出願は検索に出てこない
対策: 公開前の出願が存在する可能性を認識しておく。学術論文・学会発表も並行して調査する。
失敗5: 外国特許を調査しない
問題: 日本の特許だけ調査し、海外の先行技術を見落とした
対策: Google PatentsやEspacenetで海外特許も調査する。PCT出願はWIPO PatentScopeで検索できる。
専門家に依頼すべきケース
以下のような場合は、弁理士や特許調査会社への依頼を検討してください。
| ケース | 理由 |
|---|---|
| 出願前の本格的な先行技術調査 | 請求項の設計に直結するため、漏れのない調査が必要 |
| 侵害調査(FTO調査) | 他者の特許権を侵害するリスクの判断は法的知識が必要 |
| 無効資料調査 | 侵害警告を受けた際、対抗手段としての調査は専門性が高い |
| 海外出願前の調査 | 各国の特許制度・審査基準の知識が必要 |
| 大規模な技術動向調査 | 数百〜数千件の特許を分析する場合 |
弁理士の選び方も参考にしてください。
アクションプラン: 今日からできる特許調査の始め方
- J-PlatPatにアクセスする: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
- 自社の技術に関するキーワードで簡易検索してみる: まずは感覚をつかむ
- 同義語リストを作成する: 5〜10個のキーワードを洗い出す
- FI分類を調べる: パテントマップガイダンスで自社技術のFIを確認
- 検索式を組み立てて検索する: キーワード+FI分類で絞り込み
- 関連性の高い公報を5〜10件読む: 自社発明との類似点・相違点を整理
- 調査結果をまとめる: 上記のテンプレートを使って報告書を作成
特許調査は最初は難しく感じますが、慣れれば短時間で効率的に実施できるようになります。まずはJ-PlatPatに触ることから始めてみてください。
最終更新: 2026年4月3日 J-PlatPatの画面構成は、INPITによるアップデートにより変更される場合があります。最新の操作方法はJ-PlatPatのヘルプページでご確認ください。