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国際特許出願に関する重要用語を網羅的に解説。PCT・パリ条約・PPH・各国制度の用語をカバー。
グローバルに事業を展開する企業にとって、海外での特許取得は不可欠です。しかし、国際特許の世界にはPCT、パリ条約、PPHなど独自の用語体系があり、これらを正確に理解しなければ適切な出願戦略を立てられません。本記事では、国際特許に関する主要な用語を条約・制度別に体系的に解説します。
パリ条約に関する用語
基本原則
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| パリ条約 | 1883年に締結された工業所有権の保護に関する基本条約。178カ国が加盟(2026年現在) |
| 内国民待遇 | 加盟国の国民に自国民と同等の保護を与える原則 |
| 優先権 | 第一国出願日から12か月以内に他の加盟国に出願すれば、第一国出願日を基準に審査される権利 |
| 優先期間 | 優先権を主張できる期間。特許は12か月、意匠・商標は6か月 |
| 優先権証明書 | 優先権の基礎となる出願の存在を証明する書面 |
| DAS | Digital Access Service。優先権証明書を電子的に交換するWIPOのシステム |
パリルートでの出願
パリ条約に基づく優先権を利用して各国に直接出願する方法を「パリルート」と呼びます。
メリット:
- 出願先の国を個別に選択できる
- PCTよりも初期費用が低い(出願国が少ない場合)
デメリット:
- 各国ごとに翻訳・手続が必要
- 12か月以内にすべての国への出願を完了する必要がある
PCT(特許協力条約)に関する用語
PCT手続の基本用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| PCT | Patent Cooperation Treaty。1970年採択の特許協力条約。157カ国が加盟 |
| 国際出願 | PCTに基づき一つの出願で複数国への出願効果を得る出願 |
| 受理官庁(RO) | 国際出願を受理する官庁。日本国特許庁またはWIPO国際事務局 |
| 国際調査機関(ISA) | 国際調査報告を作成する官庁。日本出願の場合は日本国特許庁またはEPO |
| 国際予備審査機関(IPEA) | 国際予備審査を行う官庁 |
| 指定官庁(DO) | 国際出願が効力を有する各国の特許庁 |
| 選択官庁(EO) | 国際予備審査が効力を有する各国の特許庁 |
PCT手続の流れに関する用語
| 用語 | 意味 | 期限 |
|---|---|---|
| 国際調査報告(ISR) | 関連する先行技術を列挙した報告書 | 優先日から16か月または調査開始から9か月 |
| 国際調査見解書(WO-ISA) | 特許性に関する見解書 | ISRと同時に発行 |
| 国際公開 | 国際出願の内容がWIPOにより公開される | 優先日から18か月 |
| 国際予備審査 | 特許性に関する予備的判断を得る任意の手続 | 優先日から22か月以内に請求 |
| 国際予備審査報告(IPER) | 予備審査の結果を記載した報告書 | 優先日から28か月 |
| 国内段階移行 | 指定国の特許庁に移行手続を行うこと | 原則として優先日から30か月以内 |
| 第19条補正 | 国際段階でクレームを補正する手続 | ISR送付から2か月または優先日から16か月 |
| 第34条補正 | 国際予備審査中にクレーム・明細書を補正する手続 | 予備審査中 |
PCT出願のコスト構造
| 費用項目 | 概算金額(円) |
|---|---|
| 国際出願手数料 | 約18万円(30枚超で追加料金) |
| 調査手数料(日本特許庁) | 約7万円 |
| 送付手数料 | 約1万円 |
| 国内段階移行費用(1カ国あたり) | 20万〜80万円(翻訳込み) |
PPH(特許審査ハイウェイ)に関する用語
PPHの基本
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| PPH | Patent Prosecution Highway。他国での審査結果を利用して審査を早期化する制度 |
| 通常型PPH | 第一庁の審査結果に基づき第二庁で早期審査を請求 |
| PCT-PPH | PCT国際段階の見解書に基づきPPHを請求 |
| PPH MOTTAINAI | 第一庁に限らず任意の参加庁の審査結果を利用できる多国間PPH |
| GPPH | Global PPH。PPH MOTTAINAIを発展させた多国間枠組み |
| 対応クレーム | PPH請求時に第一庁で許可されたクレームと十分に対応するクレーム |
PPHのメリット
- 審査期間の短縮 — 通常の約1/3〜1/2の期間で結果が出る
- 特許査定率の向上 — PPH利用案件の査定率は通常審査より高い傾向
- 費用削減 — 審査対応の回数が減り、弁理士費用が節約できる
その他の国際制度に関する用語
地域特許制度
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| EPC | European Patent Convention(欧州特許条約) |
| EPO | European Patent Office(欧州特許庁) |
| 欧州特許 | EPOにおいて一括審査され、指定国で国内特許として効力を持つ特許 |
| 単一特許(UP) | 2023年開始。一つの手続でEU加盟国の大多数に効力を持つ特許 |
| UPC | Unified Patent Court(統一特許裁判所)。単一特許の紛争を管轄 |
| OAPI | アフリカ知的財産機構 |
| ARIPO | アフリカ広域知的財産機関 |
| ユーラシア特許 | ユーラシア特許機構による広域特許 |
国際的な分類・データベース
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| IPC | International Patent Classification。国際特許分類 |
| CPC | Cooperative Patent Classification。EPOとUSPTOが共同開発した分類 |
| FI | File Index。日本特許庁独自の分類体系 |
| Fターム | IPCを補完する日本独自の技術分類 |
| WIPO | World Intellectual Property Organization(世界知的所有権機関) |
| PATENTSCOPE | WIPOが提供する国際特許データベース |
まとめ
国際特許の用語は制度間の関連性が複雑ですが、「パリルート」「PCTルート」「PPH」という3つの軸で整理すると理解しやすくなります。自社の事業展開先に応じて最適なルートを選択するために、本辞典を活用してください。